7時19分による文章の類
by 7時19分
サイレンと朝日
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 遠くで救急車のサイレンの音が聞こえた。それほど遠くない。近づいてきている。

 換気扇の向こう側からサイレンの音は聴こえていた。私は缶ビールを片手に目玉焼きを焼いていた。閉じたカーテンの隙間から朝日が入り込んでいた。同時にサイレンの音も徐々に大きくなって部屋に入り込んでくる。どう聞いてもピーポーピーポーじゃないよな。この音は。ビールをちびりと啜る。フライパンから油が飛んできた。火力を弱にしてガラス蓋をかぶせた。パチンパチンと鳴っていた音は、蓋による効果でぽすんぽすんと聞こえた。そうだよな、たぶんこういうことなんだよな、と音を聴きながらうなずく。サイレンは明らかに今まで聞いてきたピーポーピーポーではなく、なんていうか、もっと情けない、もっと玩具的なソレだった。ただし、なにがサイレンの音をそうさせているのかは知る由も無い。ただ、酔いにまかせてなんとなく納得しているに過ぎない。

 腹減った。腹減った。炊飯器から湯気が立ち昇る。すこし冷えた室内に真っ白い蒸気が漂う。いいにおいね。やっぱりご飯だよね。日本人なら。思っている考えは全部口に出ていた。酔っているなあと女性は思う。同時に口から出ている。やっぱり考えすぎなんだよ。私は。

 無心で、無心で。思えば思うほどやはり考えていることは洪水のように溢れ出てしまって、止めようにも止められなかった。口に運ぶご飯があたたかくて、でもすこし塩気があった。涙が出ているのは分かっていて、でも拭うつもりはなかった。ふと考えが浮かばなくなって頭が空っぽになったのが分かった。無心になることの難しさを感覚だけで感じていた。やっぱり、忘れるなんてできないんだよ。わたしには無理だ。

 もうとっくに、サイレンの音は聞こえなくなったはずなのに、耳鳴りのように頭の奥のほうで鳴り続いていた。実際のサイレンより、サイレンらしく聞こえていた。




#HOLGA135
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by mottohikariwo | 2009-02-07 00:26
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