7時19分による文章の類
by 7時19分
梅の華
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 すぐそこの手に届きそうな花瓶。そこに活けてある梅を見ていてふと思い出した。やっぱりいつかの夏の時期にに見たアレは梅の花だった。
 わたしは久しぶりに会った女友達と居酒屋で飲み交わしていた。繁華街のこじゃれた雰囲気のそこに彼女に連れられて。


 最初に目に留まったときに違和感があったんだよね。なんていうか、桜が赤いもみじと一緒に咲いているような違和感。ペンギンと白熊が一緒に写真に写っているような違和感っていうのかな。あ、分かりづらいか。とにかく得体の知れない違和感。あれ? って思った。でも気づいたのは視界に入ってから3分以上たってから。だいぶ遅いよね。うん、わたしもいまさらながらに思う。そして何で気がついたのかっていう理由がある。3分以上も見逃しておいて気がついた理由なんて間抜けもいいところだけど、でも聞いて。


 さっき、夏の時期って言ったのは覚えてるよね。そう、たぶんあれは8月。たぶん、確信はないけど。なにせけっこう昔のことだから。小さいときね。でも物心はとっくについている。小学生だったかな。たぶん。たぶん、が多いのは許してね。アルコールが入るといっつもこうなっちゃうんだ。あ、キミ今うそ臭いって思った。梅の話が、ね。ほんとなんだ。でも誰にも話したことはないよ。まるでわたしが牛丼屋に入ってきたピエロみたいに見られるのは分かってるんだから。

 それで。そう、8月真っ只中のある日。その日。おばあちゃんと一緒に夕飯の買い物に行ってた。わたしってばおばあちゃん子だったんだよね。やさしいから好きだったんだ。そう、買い物の帰り道だったな。歩いて、家まで帰った。その途中だね。家と家の間っていうのかな。塀と塀の隙間。そう、それ。その間を何気なく見てたんだよ。そうしたら、向こう側は多分空き地なんだね。くるぶしにも足りない草が生い茂っていて、木が生えてた。その木に花が咲いてたんだ。もちろん、それは赤。梅の花っていったら、わたしは断然、赤だな。赤が好き。梅ね。そう。それが咲いてたのが見えたんだよ。わたしはしばらくぼうっと見ていて、やっと梅だって気がついたのは、わたしの腕をおばあちゃんが少し引っ張ったとき。それで、おばあちゃんに言ったんだ。梅が咲いてるよ、って。おばあちゃんは、そうかいそうかいってあたしの話に肯いているだけで、見向きもしなかった。そのときわたしは、おばあちゃんはきっと信じてないって思って、そして怒った。咲いてるんだもんって。さすがにわたしが真剣だったとみておばあちゃんもそっちをみたね。

 で、頷いたよ。「ユキちゃんは梅のハナをみたんだね」ってそういった。わたしは頷いたけど、おばあちゃんはそっちをみながら話を続けた。花っていう漢字は知ってるね? って。でもユキちゃんの見たのはきっと難しい漢字のハナだね。って。

 わたしは今の今まで意味が分からなかったけど、さっき分かった。たぶん、おばあちゃんには見えてなかったんだとおもう。わたしにしか見えてなかったんだ。あ、もちろんハナは中華の華ね。形容詞的に使う、そうだな、文化の華開くとかさ。梅には梅の咲く時期っていうのがあるじゃない? それ以外に咲くなんていうのは、きっとイメージでしかないんだよね。わたしはたぶんそのイメージを見ていたんだと思う。不思議なことって意外と身近にあったりするもんなんだよね。


 それからまた散々喋くり倒して飲むだけ飲んで、家路に着いた。温めのシャワーを浴びながら、わたしは頭の中をぐるぐる回る得体の知れない何かを追っていた。なんだっけ、なんだろう。あの居酒屋の場所ってどの辺だったっけ。違うな。そうじゃない。あの子ってもう結婚してたっけ? いや、そういうことでもないな。結婚指輪らしきものをしていたし。そうでもなくて。

 わたしの脳はとうの昔にアルコールに侵食されてしまっていて、考えることはもはや気持ち悪い胸の奥にいる靄のかかった何かではなく、わたしの胃の氾濫による反乱についてだった。

 ようやく胃の中のすべてを吐き出して老朽化した扇風機の弱々しい風を浴びながらふと思う。
 いまって夏だよね。だよね。
 わたしはぼんやりとした思考の中で何かを咀嚼していた。



#W22H
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by mottohikariwo | 2009-02-27 21:48
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