7時19分による文章の類
by 7時19分
向こう側のひかり
f0182052_323056.jpg


 真っ暗な長いトンネルを抜けると、そこには何の変哲もない道路が通っていた。

 その日のわたしは、いつもの散歩コースこそ変えてはいないけれど、いつもよりゆっくりと、それはもう亀くらいのスピードで歩いていた。とても天気が良くて、それでいて春らしい穏やかな空気がゆったりと流れていた。それだからいつもよりゆっくり時間をかけて歩いた。ゆっくり歩けば景色は普段と変わるもので、道端のアスファルトから生えているタンポポに気づいたり、民家の軒先に咲いている小さな花のつぼみを発見したりできる。そんな些細なことで少しだけ嬉しさが湧き出てくるような気がした。

 散歩コースの途中に、高架脇を沿う道路がある。車は一歩通行でしか通れない道で、それだからか車の通行量よりも人通りのほうが少しだけ多い。高架のいたるところに、高架の向こうを沿うやはりこちらと同じような道路に渡れる小さなトンネルがいくつもあって、いつもはそのトンネルなどは気にしないでいたのだけれど、ゆっくり歩いているせいで、トンネル一つ一つに視線が向かう。もちろんトンネル自体を見ているのではなくて、トンネルの向こう側を一つ一つ吟味するかのように歩みを止めて見つめては、また歩いた。

 トンネルは全部で十箇所くらいあったような気がする。そのおそらく十箇所目辺りでわたしは歩みを止めて、しばらく動けずにいた。そのトンネルは向こう側がずいぶん遠かった。そして他の今までのトンネルとは違って天井に灯りがともっていた。いつもはすんなり通り過ぎてしまうような光景なのに、なんだか小さな好奇心と冒険心がわたしの背中を押しているような気がしてしょうがなかった。そのトンネルの向こうにわたしの求めている何かがあるような気がした。そしてわたしは足の向くまま、トンネルの向こうの光に向かって歩き出したのだ。

 なんの変哲もない道路のはずなのに、なんだか違和感を感じていたのだけれど、それに気がつくまでにはしばらく時間がかかった。

 わたしは、なんとなく大きな期待をしていた。なにか今までに体験したことのないような素晴らしいことがわたしを待っているんじゃなかろうかと。そんな期待をトンネルの向こうの光に託していた。大げさすぎるとは思わなかった。こんな天気のいい気持ちいい日に何かを期待しなくていつ期待すればいいのだ。わたしはそんな風に思っていた。

 残念ながら、わたしの期待していたような嬉しいハプニングは一目観た限りではなかった。残念だなという気持ちと、まあこんなものかという物悲しさが少しずつ広がって、足先が後ろを捉えようとしたときだった。それは、なんとなくの違和感が確信に変わった瞬間だった。





#HOLGA135
[PR]
by mottohikariwo | 2009-03-19 04:39
<< 名残雪 モニュメントのお話 >>